”北海道浦河「べてる」訪問”
北海道での事業者団体の集いに参加した時、ずっと行きたかった「べてる」に足を運ぶことができた。
1984年に浦河町で始まった「べてる」は、精神障害を持つ人たちのための地域活動拠点だ。
向谷地生良さんがその中心となり、浦河赤十字病院での経験を生かして、精神科治療のあり方に革命をもたらした。
当時、精神科治療は入院や薬物に頼ることが多かったが、向谷地さんは地域での支援があれば入院の必要はないと考え、驚いたことに病院から精神科を無くすということを実現させたのだ。
そうして「浦河べてるの家」が立ち上がり、精神障害を持つ人たちの自立と社会参加を支援することとなった。
2001年には、当事者が自分の体験を「当事者研究」として深く掘り下げる方法を確立し、回復やリハビリテーションに取り組んだ。
べてるのホームページにはこんな理念が書かれている。
それで順調!
べてるは、いつも問題だらけ。今日も、明日も、あさっても、もしかしたら、ずっと問題だらけかもしれない。
組織の運営や商売につきものの、人間関係のあつれきも日常的に起きてくる。
一日生きるだけでも、排泄物のように問題や苦労が発生する。
しかし、非常手段ともいうべき「病気」という逃げ場から抜け出して、「具体的な暮らしの悩み」として問題を現実化したほうがいい。それを仲間どうしで共有しあい、その問題を生きぬくことを選択したほうがじつは生きやすい
べてる が学んできたのはこのことである。
こうして私たちは、「誰もが、自分の悩みや苦労を担う主人公になる」という伝統を育んできた。だから、苦労があればあるほどみんなでこう言う。
「それで順調!」と。 ー公式ホームページより引用ー
問題や苦労に直面したとき、私たちはその責任を他者に押し付けがち。
自分の問題から目を背けた方がより楽に生きられるから...。だけど自分の苦労や悩みを自らの手で担い、「苦労の主人公」となることに価値を見いだすなんて。
しかもそれらを他者と共有して、みんなでその問題を生きぬく。
とてもユニークな発想だしハッとさせられた。
浦河の街を歩いていると、この街の「主人公」がたくさんいることに気が付くのである。
あまりわが街では見かけない独特の個性の持ち主である。
わが街にも生きづらさや苦労をみんなで生きぬく力、あるだろうか。
なければその体力を養うまでかなっ。
井上信太郎